由紀さおり Complete Single Box
スカパーの「ファミリー劇場」に加入し、
「ドリフ大爆笑」ばかりを見ている。
加入したときには1979年ごろのものを放送していて、
「バカ殿様」も、もとはこの番組のコントの一つであったことも分かった。
そのバカ殿コントで、志村扮するバカ殿からいつも
年増呼ばわりされる腰元が「由紀さおり」。
ところが調べると当時はまだ32歳ごろ。
なのにどう見ても40代の落ち着きをかもし出している。
毎回、番組後半には本業の歌も披露している。
何度も見ている内に気になってきて、
iTunesでダウンロードしてしまったのが表題のアルバム。
実際は数年前にリリースされた3枚組CDボックスである。
60年代から00年代までのシングルA面作だけが収められている
(ただし最後の1曲だけ、ボーナストラックとしてB面曲)。
解説付きのライナーノーツ(=歌詞ブック)同梱とのことで、
今となっては「やっぱりCDで買えばよかったかな」と少し後悔。
このボックスを聞いて、由紀さおりのイメージがかなり変わった。
それまでは「女優も出来る小器用なオバさん歌手」のイメージしかなかったが、
知られざる(?)「スーパーシンガー」だったのだ。
知っている曲は初期の「夜明けのスキャット」「手紙」くらいしかなく、
それ以外は、大野雄二作の「故郷」を聞いたことがある程度で
このボックス収録作の大半は初めて聴いたものばかり。
ヒット作にはあまり恵まれていない人なのだ
(だからこそバラエティやドラマに精力的に出演できたのかもしれないが)。
通しで聴けば3時間は超えるボックスをずーっと聴いてみた。
なんとも聴き応えのある曲ばかりなのだ。
購入以後、気に入った曲を繰り返し繰り返し再生しているが、
「夜明けのスキャット」も「手紙」も聴かないくらいだ。
(「故郷」は聴きますよ、大野雄二ファンだから)
「ドリフ大爆笑」で80年前後に披露していた曲が個人的にはお気に入り。
「男ともだち」「悲しい悪魔」「両国橋」「ストレート」あたり。
「両国橋」は松平純子のカバー曲で、
吉田拓郎の曲が心地よいライトなポップス。
情景が浮かぶ喜多條忠の詞も良い。
「悲しい悪魔」もフリオ・イグレシアスのカバー曲。
ハイトーンに至るメロディは歌唱力を求められるが、さらりと歌いこなしている。
「ストレート」は一転して寂しげなフォークで、
ビブラートを一切効かせていないところに技量の高さを感じる。
時代はさかのぼるが、
70年代は(単純にリリース数も多いというのもあるが)より充実したラインナップ。
これまた吉田拓郎による、CMソングのような
キャッチーなフレーズの連続で引きつける「ルームライト」、
叙情的なメロディが印象的な「みち潮」、
都会的なアレンジが聴かせる「トーキョー・バビロン」…。
「かたちばかりの幸福」は、由紀本人の私生活を投影しているような歌詞でこれも印象的。
由紀は20歳で年上のディレクターと結婚したが、早々にすれ違いを起こし、
7年で別居、さらに7年後に離婚している。
30代前半で容貌に貫禄をたたえるようになったのは
そういう苦労もあったからだろうが、
アルバムを聴く限り、歌手としてはより脂が乗っていく。皮肉なものである。
芸の幅の広さを感じさせるものとして、
小唄・端唄調、はたまた演歌調のヨナ抜き曲も少なくない。
70年代の「恋文」、80年代「木遣り育ち」、00年代「酔って膝まくら」などなど。
なかでも「矢車草~夢二のおんな」は疑いようのない演歌だ。
ポップス歌手のイメージが強いが、
日舞のBGMとして使われるような舞踊歌謡については
(このCDには入っていないが)70年代からすでに取り組んでいたようである。
近年も「お江戸でござる」のレギュラーを務めていた関係で、
演歌調の曲をリリースしているが、「お手のもの」といった印象だ。
「渥美地方の子守唄」「赤い星・青い星」は「みんなのうた」採用曲。
後者は竜崎孝路のアレンジも素晴らしく、
ある夜にほろ酔い加減で聴いていたら、
不覚にも涙が出てきてしまった(年だね…)。
作家陣は実に豊富。
吉田拓郎、谷村新司、南こうせつ、伊勢正三、
玉置浩二、宇崎竜童といった有名ミュージシャンが提供しているし、
作曲家・作詞家を見ても、岩谷時子、なかにし礼、
山上路夫、久世光彦(小谷夏/市川睦月名義)、すぎやまこういち、
平尾昌晃、阿久悠、秋元康、船村徹とそうそうたる面々が揃う。
吉田正に至っては、「彼女の曲を作りたい」と
東芝EMI(現在のユニバーサル)所属の由紀に、
ビクター所属の吉田御大からオファーをかけ、
特例として「お先にどうぞ」をビクターからリリースしたのだそうな
(そのため、iTunesでは「お先にどうぞ」がアルバムに含まれていないが、
単独ではダウンロード可能)。
多岐にわたるジャンルを縦横無尽に歌いこなす
由紀さおりのスーパーシンガーとしての実力を、
これでもかと思い知らされるボックスであった。
先日、テレビのインタビューで話していたが、
「紅白に落選したことが、姉(声楽家・安田祥子)との
活動に取り組むきっかけとなった」という。
以後は姉と童謡コンサートに力を入れるようになり、今に至るのだが、
本来の「流行歌手」としても、まだまだ忘れられてはならない存在だと思う。
「夜明けのスキャット」で一発屋的扱いをされることもあるが、
非常にもったいない。
近年、アメリカのジャズバンド「ピンク・マルティーニ」との共演アルバムが
iTunesで配信され、海外で話題を呼んだことは記憶に新しい。
世界で認められる歌声なのだ。
少しでも多くの人に彼女の曲を聴いて欲しいと願う次第である。
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