選挙開票速報特番。
もはやテレビ東京の「池上彰」は定番となってきている。
先日の参院選でも、テレビ東京の特別番組の視聴率は、
NHKに次いで2位。
民放では視聴率トップである。
テレビ東京が1位を取るのは、よほどのことである。
その「よほど」を、池上は起こしているのだ。
なんといっても池上の解説は「わかりやすい」そして「おもしろい」。
この候補は誰が支援しているのか、を、模型を使って解説する。
コメンテーターは無知そうな芸能人ばかり(これは池上が得意とする演出だ)。
池上はやたらに知識をひけらかさず、VTR明けにインテリジェンスを小出しにするが、
小出しだから嫌味がない。
そして、候補を揶揄する。
候補を紹介する時の「ミニミニ情報」を「小ネタ」のようにさしはさみ、
さらに「創価学会ネタ」。公明党候補を紹介する時は、お約束のように
「公明党=創価学会」に触れてくる。
「政教分離」主義にどう見ても矛盾する公明党の存在を池上は番組で突き、
候補にそのことを問うていく。
公明党候補を紹介する時の「来たぞ来たぞ」感は、視聴者をワクワクさせる。
そう、イチローが打席に立ったときのような…。
この「創価学会」に触れるという「タブー」を破ってまで、
「わかりやすさ」を追究するのが池上流。
この「わかりやすさ」「おもしろさ」が、
池上の特番が支持される理由なのだ。
いっぽう、他局の開票特番はどれもこれも似たり寄ったりで、
しかも「わかりにくい」「おもしろくない」。
「平日ニュースの看板キャスターを起用しなければならない」という不文律に陥り、
古舘伊知郎、安藤優子、村尾信尚といった代わり映えしない面々。NHKも武田真一アナだった。
TBSに至っては膳場貴子ではもたないと判断し関口宏を担ぎ上げたが、結果は…。
まあ、参議院議場から番組を進めるという手法には、
さすが赤坂の局だ、と膝を叩いたけれど。
テレ東は看板キャスターがいなかった。
以前は、しかたなく「WBS」の小谷真生子を起用していたが、
WBSは経済番組。小谷では独自色が出せるはずもなかった。
民放で人気を博していた池上に、
白羽の矢を立てられるのはテレビ東京しかなかった。
そもそもテレビ東京は、日本経済新聞の協力があるとはいえ、
系列局が5社しかなく、全国の状況を20社以上の系列局から仕入れられる他局とは事情が異なり、
「全国から膨大なデータを集めて分析し速報する」ことができない。
そのため、「ショーアップ」した「わかりやすい」「おもしろい」
開票速報番組の立ち上げに踏み切ることができたのだ。
ただ、そもそもこの「わかりやすい」「おもしろい」開票特番は、
久米宏の「選挙ステーション」が先鞭をつけていたはず
(当時、岩手に系列局がなかったので詳しくは知らないが)。
取材対象を揶揄するという手法は「ニュースステーション」が得意としていた。
模型だって、Nステのほか、今では「サンデーモーニング」が自家薬籠中。
しかしテレ朝もTBSも、型にはまった特番しかできなくなった。
選挙特番はそもそも、開票状況が逐一更新され、状況が刻々と変わる、
という「スポーツ中継」的面白さがあったはず。
しかしいまや20時の投票終了で各局議席獲得予想数値を出すようになり、
しかもその精度は似たり寄ったり。
当確だって、以前は「当確ミスで謝罪」というニュースが翌日によく流れてきたが
ミスを恐れ、当確で冒険もしなくなった。
つまりどの局を見ても、開票速報は金太郎飴のように同じなのだ。
地方局のローカル速報ならなおさらで、ショーアップする技術も度胸も持っていないから、
平日夕方のローカルニュース番組の看板キャスターが淡々とデータを読み上げ、
当確が出れば延々とその候補の事務所からの中継をだらだら続け、全国の情勢は全く分からなくなる。
それに比べると池上彰の開票速報の、なんと面白いことか。
他局も、そろそろ決まりきった構成の特番は、見直すべき時に来ているのではないだろうか。
特にくやしいのは、池上を発掘したテレビ朝日、そしてOBによって追いつかれたNHKだろう。
まあNHKに、ショーアップした速報番組は誰も求めていないだろうが、
民放については、看板キャスターでなくてもいいはずなのだ。
申し訳ないが、たとえば安藤優子が出ているから速報を見たいと思う人はあまりいないだろう。
そういう意味では、先述の関口宏の起用はいい例かもしれない。
参院議場での生放送というのも意表をついていてよかったと思う。
他の4局は「打倒池上!」で、もっとぶっ飛んだ内容でやったっていいのではないか
(ふざけたり笑いを取りにいったりしなくてもいいけれど)。
確かフジテレビも80年代のイケイケ時代にはそのような手法でやっていたはず。
しかも他の4系列は、テレ東系列にはない組織力・機動力があるのだし。
これは地方局や独立局にも言える。さきほども言ったが「淡々」「ダラダラ」とした
ローカル開票速報も見直すべきだろう。
なんにしても、池上彰はいろいろな「課題」を、政治家だけでなく
テレビ局にも突きつけたように思う。
今度の参院選で勝ったのは自民党でも公明党でもなく「池上彰」その人ではないか。