21世紀の落語入門
小谷野敦・著、幻冬舎刊。
広瀬和生「落語評論はなぜ役に立たないのか」を読んで
胸くそ悪くなった方にはぜひ読んでもらいたい。
この広瀬本への批判も含まれているが、
「生の落語を聴かない奴は落語を語る資格なし」と言いたげな
昨今の落語ブームに警鐘を鳴らす、そんな本だ。
広瀬や堀井憲一郎のように、
毎日なんらかの落語会に出向いては評論文をしたためているような
「落語ホリック評論家」は信用するな、と説く。
初心者が聴くなら、「過去の名人の録音でもいい」とし、
生の高座は見られる環境にあれば見ればいい、程度。
我々のような地方在住者は快哉を叫びたくなる。
また、「誰それは名人」という「通説」を信用しなくてもいい、と説く。
たとえば、著者は「志ん生はよくわからない」と断じる。
これはよくわかる。確かに、みな名人だ、名人だ、と言うけれど
音源を聞いてもおじいさんがムニャムニャしゃべっているだけにしか聞こえない。
こういうと「お前は素人だな」と笑うのが落語ファンだったりするのだが、
著者はそこにくさびを打ち込んでいるのだ。
ただ、痛快なのは序盤だけで、中盤以降はやや読みにくくなる。
博覧強記な著者は、落語同様に好むという歌舞伎や、
クラシック音楽、ヨーロッパ文学などでたとえ話をするのだが、
これが門外漢にはチンプンカンプン。
あと、落語に限らず「◯◯は傑作だ」「◯◯はくだらない」と言った、
著者の個人的趣味に基づいた断定的記述も多く
(ほぼ誹謗中傷レベルの危なっかしい部分もある)、
くしくもこういう部分は広瀬本に通底する。
まあ、「毒をもって毒を制する」とでもいおうか。
小難しくて意味不明な文、
趣味を押しつける毒々しい文…これらの中に、
スカッとする部分が出てくるから、
よけいにスカッとする。
そんな本である。
寄席もそうだ。著者も言うが、
面白い落語家もいるし、つまらない落語家もいる。
だから、寄席は面白い。
…おっと、寄席礼賛をしてしまったではないか。
この本は「スカッとするための本」ではなく
「21世紀の落語ファンへ贈る入門書」のはずなのだが、
後者としては、やや心もとない…のは、ご愛敬かな。
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