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ハード&ソフト

ファミリーコンピュータで世界的な覇権を握り、
栄華を放った任天堂の凋落が止まらない。
売上は精彩を欠き、内部留保は潤沢とはいえ、
それを食いつぶしているような状況。

ゲームの主戦場は完全にスマートフォンに移っており、
任天堂に代表される、ハードとソフトを抱き合わせる商法は
通用しなくなってきている。

同じハードメーカーとはいえ、スマートフォン寄りの商売もしている
ソニーやマイクロソフトと異なり、
現在の任天堂のビジネスモデルは、
スマートフォンを喰わないと喰っていけない、という、
そりゃ無理だろ、的なポジションにある。

任天堂も、ハードをソフトランディングさせ、
ソフトに舵を切るほうが収益力は確保できるのだろうが、
それでは他のソフトメーカーと同じ土俵に立つだけになる。

ハードとソフト、という話で思い出すのは、
「写研」という会社である。

写真植字(写植)という、いわゆる「活字」を進歩させた、
文字印刷技術のトップメーカーだった。

「だった」というのは、今や見る影もない弱小企業に成り下がったからである。

写植は、文字を版下に印字するハードウェアと、
書体(今で言うフォント)を搭載した「文字盤」という
いわばソフトウェアの、抱き合わせで成り立っていた。

写研は日本における写真植字の草分けで、
名実ともにトップメーカーとして君臨。

東京に地盤を置く写研のライバルだったのが大阪の「モリサワ」。
もとは同じ製薬会社に勤めていた両社の創業者が、
写真植字装置を共同開発したのだが、
わけあって東京と大阪に袂を分かちしのぎを削った。

ライバルと言っても、地元の大阪でモリサワが健闘していた程度で
全国的シェアでは写研の一人勝ちだった。

それが崩れたのは、パソコン(当時はMac)による製版の広まり。
写研は、パソコンを使わないハードウェアの販売にこだわったが
モリサワは文字盤をデータ化=ソフトウェア化し、
Macで使えるようにした。

自社ハードの販売を犠牲にしたのだが、
それが奏功することになった。

パソコンはあっという間に普及し、
モリサワのフォントが支持を集める一方、
パソコン上で使えない写研のシステムは嫌われ、
徐々にシェアを落としていく。

誰の目にも、写研の書体とモリサワの書体では美しさが違っていたが
Macで操作できるモリサワ製品の便利さにはかなわなかった。

これが20年ほど前の話。

モリサワはいまやフォント業界トップシェア。
新聞広告などはほぼ100%モリサワの書体が使われていると言っていい。

それに引き替え、写研は創業者の娘である女社長が
自社ハードウェアに拘泥した結果、凋落。
10年ほど前には粉飾決算も発覚している。

いまは大塚でひっそりと営業を続ける。
2年前にようやく書体のデータ化を発表したものの
その後音沙汰はない。「勝負あった」、である。
(なお写研は未だに自社ホームページすら持っていない)

話をゲームに戻して。
最大のライバルだったセガは、すでにハードを見切って
ソフトに注力している。

ただしセガはパチスロメーカー・サミーの傘下に入ってしまった。
ナムコもバンダイと経営統合、
同じ玩具メーカーではタカラとトミーも合併。

任天堂も、一介の花札屋からここまでのしあがってきた自負はあろうが、
いつまでも独立独歩、というわけにはいかないかもしれない。

「任天堂」という社名は「天に任す」という意味があるという。
お天道様は晴れたり曇ったりを繰り返す。ときには嵐も呼び起こす。
天に棹さすか身を委ねるか。

倒れるなら前のめり…なんて格好いいことは言っていられない、
従業員5000人は、そうそう運を天に任せられないのだから。

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