« お笑いハラスメント | トップページ | トヨタはお嫁に行きました »

立川流騒動記

「立川流騒動記」立川談之助・著。

立川談志の古参弟子が書き記した、立川談志一代記とも言うべき書である。

筆者は、群馬で生まれ、落語にハマって明治大の落研に入る。
談志の「ぞくぞくするような」高座に惚れ込み、
半ば思いつきで、談志門下となる。

当時の談志は脂ぎって血気盛んな頃。
しかも国会議員でもあった談志に付いての修行は、
血のにじむような3年間だった、と言う。

議員時代の行状や、理不尽な言動など、
談志のいやな部分をいやというほど見ることになる。
もちろん、愛らしい部分もあったと言うが…。

前座修行がようやく終わった…と思ったときに、
「落語協会分裂騒動」、そして「立川流創設」という、大きな出来事が、
談志、そして筆者をはじめとした弟子らを待ち構えていた。

筆者は協会分裂騒動を「円生と正蔵の仲の悪さ」と
「談志と志ん朝の微妙な関係」に尽きるとし、
また、真打ち昇進基準の見解の相違というささいな出来事を
分裂騒動にまで仕立て上げた張本人、フィクサーは
まさに立川談志その人に間違いない、とする
(意外なのは、新協会立ち上げに動いた先代円楽について
「孤立した円生を気の毒に思っての行動だった」としている点。
談志と同じ黒幕だと思っていたのだが…)。

そして重要な分水嶺・談志一門の協会脱退。
一言で言えば「(先代)小さんの政治力のなさ」が原因だ、という。

円生脱退騒動を受け、真打ち昇進は試験制になってしまう。
形だけ試験をやって全員合格、という「ナアナア」にすればいいものを、
竹刀のようにマッスグ過ぎる性格の小さん。
「不合格者も出さないと権威が出ませんよ」と、
周りからの余計な入れ知恵を鵜呑みにしてしまい、
結局不合格者を出してしまう。

しかも技量で合格不合格を選んでいたわけではなかった。
「大御所の弟子なら合格しやすい」など、
不明朗で公平さに欠ける「合格基準」を見抜いた筆者は
当時それを落語の題材にもしていたという。

そんなあやふやな基準で弟子を落とされた談志、
当然の如く怒り狂うが、
マッスグ小さんには談志を取りなす能力もなかった。
そして談志は一門で協会を飛び出てしまうのである。

「立川流」は寄席に出ることができなくなるのだが、
筆者をはじめ、弟子たちは「寄席に出られない」ことで
何も困ることはなかったという。

とくに筆者は、三遊亭円丈らと「実験落語」に取り組み、
一定の成果を上げてもいた。

しかし、あまりに談志サイドにうまく転がりすぎる状況に、
筆者は「談志は最初から協会脱退後の筋書きを
全部用意していたんじゃないか」と、「陰謀論」まで持ち出す。
もちろんジョークめかして、だが…。

先述通り、筆者は談志の人間的に嫌な部分や、
脱退に至るまでのドロドロを、すべて見ている。
そして協会を飛び出た談志は、悪名高い「上納金制度」などで、
やりたい放題を尽くしていく。

そのあとの、談志の人間的にちっちゃい部分を
どんどん列挙するくだりは、必読である。

「晩年、談志の芸は落ちた」という表現も使っている。
快楽亭ブラックですら言わなかった言い回しである。

むしろ、それだけ筆者は、
立川談志という落語家に惚れ込んでいたという証左だろう。

若き日に筆者は、談志の「ぞくぞくするような」高座を目の当たりにしている。
立川流創設後、そのような高座はなくなってしまった、と記している。
そこまで書いておきながら、最後に筆者は談志に対し感謝の言葉を述べ、
本著を締めくくっている。

本書の内容に関し、「談志に一番愛された弟子」立川志らくは
「こんなことを死んでから言うのは卑怯だ」
「死人に口なしで発信するのはバカだ」と
兄弟子にも構わぬとばかりに、だいぶご立腹しているが、
「ずっと身近にいた」からこそ客観視できるわけで、
愛情があるのはむしろ筆者や、快楽亭ブラックのほうであろうと思う。

「談志亡き後の立川流など、単なる親睦団体だ」と切って捨てる。
立川流は、立川談志そのものなんだ、と。
これで愛情がないというなら、なんなのか。

単なる偏愛ではない。一見冷たく突き放しているようで、
やっぱり愛してやまない、談志に対する思い。

生きているうちに言えったって、
聞き分けるような人じゃない。
そこまで分かってこそ、言えることなのだ。


|

« お笑いハラスメント | トップページ | トヨタはお嫁に行きました »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

「芸能・アイドル」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17134/55152469

この記事へのトラックバック一覧です: 立川流騒動記:

« お笑いハラスメント | トップページ | トヨタはお嫁に行きました »