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打ち切りのうた(1)

(これは、実際の出来事・作品を元にしたフィクションであり、
ほぼすべてが、創造した虚構の物語であります)

とあるドラマの打ち切りがスポーツ紙を賑わせる。
プチテレビ・日曜夜9時「ニュースキャスター家族」である。

主演は荻下亮。36歳。ファッションモデルのような容姿と
陰のある表情で支持を集める中堅俳優である。

このドラマは、その荻下演じる新進ニュースキャスターのもとに、
20代の頃、若気の至りでこさえた私生児たちが次々と現れ、
荻下を翻弄していくというホームコメディである。

実は似たようなプロットのドラマ「パパのうた」が、
80年代に製作され、大人気となっていた。

「ニュースキャスター家族」のスタッフは、
そんなことは百も承知であった。
そう、「わざと似せたドラマ」にしたのである。

パクられたほうの脚本家も、番組開始前から、
公式サイト上で遺憾の意を表明するほどの似せ具合だった。

「パパのうた」の主役はミュージシャン、
こちらはニュースキャスターで、全然違います…
そう主張して、脚本も少し書き換えると約束して
(実はこれも最初から決まっている)、丸く収めた。

さらにプチテレビの編成部長が、抗議した方の脚本家と一献交わし、
「1年後にオファー出しますから」と確約すると、
脚本家の方も自営業ゆえ、ホコを収めるのであった。

「いい遺恨試合だったな…」。
編成部長は、帰りのタクシーの車内で、ほろ酔いのままほくそ笑むのだった。

プチテレビの日曜夜9時は、
大阪の系列局が製作する情報番組が不祥事で打ち切られて以来、
何の番組を作っても長続きせず「呪われた枠」とまで言われていた。

起死回生を狙ってドラマ枠に転換。
裏番組にも、数十年の歴史を誇るドラマ枠があったが、
そこにあえてぶつけたのである。

…しかしプチテレビ自身の不振もあり、
さほど好調とは言えない枠だった。

プチテレビとしては、荻下よりも格上の俳優を起用したかったが、
子供向け特撮で人気を確立し、
人気女優をめとって「美男美女夫婦」としての誉れも高い荻下を、
コミカルなドラマに挑戦させることで話題になるだろう、
と踏んだのだ。

しかし、目論見は大きく外れる。
先述の裏番組が、荻下よりも確実に格上の人気アイドル
(といっても40近いのだが)を主演に据えたドラマ作品で、
勝負を仕掛けてきたのだ。

SFチックな演出だが、どこかコミカルさも感じる作風で、
「ニュースキャスター家族」よりも一枚上手だった。

やられた…。
編成部長は裏番組の第1回を見て、頭を抱えた。
「あっちのほうが、おもしろいじゃねぇか」。

その裏番組ドラマは2回目以降、視聴率を下げたが、
「ニュースキャスター家族」のほうはもっとひどかった。

第1回6%台。これもむちゃくちゃだが、
次の第2回で3%台に下げた。
これは、平日午前中の番組よりもひどい数字である。

スポンサー、テレビ局、広告代理店の担当者…
皆、その視聴率にただただ呆然とするばかりだった。

一番ショックを受けたのは、主演の荻下だった。
第3回も視聴率3%台に沈み、
いよいよ週刊誌やスポーツ紙が興味本位で取り上げ始めた。
「歴史的低視聴率」「人気俳優も地に堕ちたか…」。

荻下は自分の演技には自信を持っている。

子供向け特撮から、時代劇、
超大御所映画監督のメガホンによる映画まで、
芸の幅広さが自慢だ。

確かに「薄く広く」とは言われがちだが、
「まずまずの結果を出す男」として業界では名が通っている、
と自分でも思っていた。

それがいまや「低視聴率番組の顔」である。
インターネットのスポーツ紙のサイトでも、「低視聴率」の文字の下に、
必ず自分の顔写真が入る。

荻下は思わず、Macノートの画面を閉じた。
「ふぅ」

そのため息を聞き、妻が「どうしたの?」と問いかけるも、
荻下は自室にこもって物思いにふけるばかりだった。

妻もまた人気女優の「樫木優衣」であった。
昨年には女児も出産し、現在は子育てに専念している。

優衣とて女優だから、荻下のドラマの不調くらいは知っている。
しかし荻下はあまり感情を表に出さない男なので、
夫に合わせていちおう、知らないふりをしたのだ。

つづく

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