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立川談志の正体~愛憎相克的落語家師弟論~

快楽亭ブラック著、彩流社。1680円。

いやー、胸くそ悪い本だ。(笑)

といったって別に買って損したと思うようなものじゃない。
確かに187ページのソフトカバーで1680円は高いけれども、
著者も版元もマイナーだからしょうがない。

タイトル通りの内容の本である。
昨年暮れに逝去した師・立川談志への、
愛憎半ばする思いをしたためた「入魂の一冊」である。

二代目快楽亭ブラックは談志に入門後、
アメリカ人とのハーフという出自で、見た目も外人風のためか、
本人は名人を自認するも噺家の本筋を外れた道を歩まされる(今に至るまで)。

談志の命で改名を繰り返した末に、現在の高座名に落ち着くも、
自身の私生活の落ち度で立川流を追われる(本書内で弁明もあるが)。

さまざまな方面にケンカを売る性格と、過激な芸風も災いし、
東京で居場所を失い、現在は名古屋を仮の本拠としている。

人となりを知りたければ、ブログも読むとよいだろう。
少し読むだけでいい。1週間サイクルで同じような内容を繰り返しているだけだからだ
(高座に上がって競馬、歌舞伎、旅行に明け暮れ、
他人にたかった弁当かお食事券で腹を満たし、夜は酒をたかる。
その合間に同業者への罵詈雑言。その繰り返し)。

CD、DVDも出ているが、かなり聴く人を選ぶ芸風であることは保証する。

そしてこの本の内容もそうだ。
まあ、人の悪口しか出てこない。
「胸くそが悪い」というのはそれのことだ。

悪口の中心は、もちろん師・立川談志へのもの。

その噺家としての芸を認め、芸に惚れた、と明言はしている。
しかしその性格となるとまあ褒められたものではない、と説く。

特に「カネに卑しい」と談志をこれでもかと責め立て、
最終的に「しみったれ野郎」とののしる。

昨年暮れから、死んだ談志については、各メディアから
うんざりするほどの「礼賛」を聞かされたわけだが、
ブラックはそんな「落語界の金正日」に鉄槌を下していく。

ただし、完全に人間性を否定するような記述は巻末までついぞ見られない。
「愛」と「憎」の両面から談志をさばいてみせてからの、
あとがきの最後の一文にはしびれる。
名文家として名高い快楽亭ブラックの面目躍如である。

胸くそ悪くても最後にうならせるあたりは、
さすがとしか申し上げられない。

その代わり、談志が最後に真打ち昇進を認めた「立川キウイ」を、
談志の代わりにいじめている。

キウイは16年の前座経験を「万年前座」という著書にして話題となった
(談志の死後も少しだけ注目された。
「立川談志の正体」と違い、版元は新潮社で、ハードカバーである)。
「あれが談志の弟子か」と2chやWikipediaで叩かれ続ける希有な存在である。

少し前まではブラックとの交流もあったようだが、
現在はブラックが一方的に「あいつは『くさった果実』だ」と、
ブログで攻撃するだけの関係性である。本書でも同様。

なぜそのような関係性になったかというのは、
本書の巻末に記される『ドキュメント落語』と称する「キウイ調べ」で、
ブラック側の言い分が示されている。

キウイはいいわけせず、ブログで本書を激賛するほどである。
皮肉の可能性もあるが(だとしたらキウイも相当なものである)。

ほかにも談志一門の噺家の名前はちょこちょこ出てくる。
生志などに対しては素直に「上手い」と認めている。

しかしブラックにとっては所詮「ワンオブゼム」に過ぎない。
志の輔も志らくも談春も、だ。

とにかく「立川談志」が、快楽亭ブラックという噺家を
良くも悪くも形づくった、という縦スジは一貫し、
「畏怖」「尊敬」が本書を貫き通している。

談志に「年長者に敬意を示さないのはどうだろうか」と諭す文があるが、
ブラックもこの本でだいぶ先輩に悪口を書いている。
そんなところまで師匠に似るくらい、師匠への愛が満ちあふれている。

死んでから、褒められすぎじゃないのか。
少し、悪口も言ってやらないと本人が気味悪がるだろう。
そんな、弟子の優しさの裏っ返しの本なのだ。

そしてちょっぴり、キウイへのSっ気。
これも愛情の裏っ返しのような気がする。
本書にあるとおり、ブラックは「SMプレイ」に精通している。

そんなブラックなりの、「SとMの極意」を、
キウイへのムチに見た思いである。
そのムチは当然、天の談志にも向けられている。
イヨッ、SMの達人。


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