落語台本「あの世寄席」(前編)
この世の落語家の団体といえば、上方はおいといて、
東京で言えば落語協会略して落協、芸術協会略して芸協、
そして落協から分裂した、円楽党と立川流というのがございます。
各協会を世界の国にたとえますと、落協はアメリカ、USA。
なんだかんだいいながらも
その層の分厚さは盤石な、最大の団体です。
芸協は強いて言えばEUヨーロッパ連合。
最近没落が…とこれ以上は申し上げません。
そして立川流は、自他共に認める「北朝鮮」。
円楽党は…なんでしょう。「キューバ」でしょうか。
さて、百花繚乱、華やかな落語の世界でございますが、
実は、あの世にも落語家の協会があるんです。ご存じでしたか?
天国、といいますか、極楽の落語協会、
極楽落語協会、略して楽協。この世の落協と似ています。
会長はもちろん、人気、実力、人格、家筋、すべて兼ね備えたあのお方。
そう、古今亭志ん朝師匠であります。
志ん朝師匠が、いつものようにインターネットを見ておりますと、
…そう、あの世にもパソコンはあるんですね。
ゴクラクーというサイト、略して「Gokoo!」と言いますが、
そこに「ゴクーニュース」というのがあります。
そのゴクーニュースに驚くべきニュースが飛び込んできた。
「立川談志死去」。
さしもの談志も弱体化しているとは聞いていたが、
さすがにもう少し先だと思っていた志ん朝もさすがにあわてた。
「え゛~まさか、こちらに来るんじゃないでしょう゛~か~?
ね゛ぇ~お父さん、え゛ぇ~?」
そこはさすがの志ん生。あわてるでない息子よ、とアドバイス。
横で静かにうなずく馬生。天国でもすばらしき親子愛です。
「お血脈」はとうの昔に石川五右衛門が盗んで極楽に来ちゃってるし、
地獄では死神のローソクはちゃんと管理されていると、
極楽新聞にも書いてあった。
ということで、さんざん悪事を尽くしてきた立川談志師匠、
極楽行きの切符をにぎるはずもなく、
閻魔大王のオーディションに無事合格し、
立川談志は三途の川から
地獄エクスプレスに乗ってやってきたのであります。
真っ黒い岩肌のごつごつした洞窟のような空間。
ぴちゃ、ぴちゃ…
じめじめと湿っていて、上からはしずくが、たれ落ちてきます。
米粒のように白い光が、
頭上数百メートルにほのかに見えるが、そこに行く手段はなさそう。
あれが極楽なんでしょう。
この地獄、明かりと言えば、燃えさかる炎。
血のように真っ赤な液体が煮えたぎる風呂を沸かしている。
そしてその炎が、針のむしろを照らし、鈍い光を放ちます。
そこでもって、死ぬ前に悪行を尽くした連中が責め苦を味わっている。
ひぃぃ~ひぃぃ~。聞くもおぞましいあえぎ声、叫び声。
しかし当の談志はケロリとしたもんで。
「おう、あれが地獄名物灼熱風呂かぃ、粋なもんデェ」なんて言っている。
「生き」じゃなくて死んでるんですが。
係員の赤鬼、青鬼、ミドリ鬼が話し込んでいる。
「そろそろ麻原彰晃も来るらしいな」。
各アトラクションの前では、罪人達が順番を待っております。
ベンチでは、カダフィとビンラーディンと金正日が仲良く座っています。
彼らもなんだか余裕の表情。さすが、悪人は違うネェ。
しかし、行列ができるくらいなので、
罪人は責め苦を始終受けているわけではなく、
けっこう自由時間もあるらしい。
当然、地獄でも落語ブームが起こっておりますし、
極楽と同じく、地獄にも落語協会があります。
「地獄落語協会」、略して獄協。
長年獄協の会長を務めていたのが三遊亭円生師匠。
しかしその人望のなさで人気がなくなっていたところへ
きら星のごとく現れたのが、星の王子様・三遊亭円楽。
さっと会長の椅子を持って行った。
「早く歌さんも来ないかねぇ」とかそんなことを言ってるうちに、
地獄の3丁目にある獄協の事務所を談志が訪ねたからさあ大変。
当面来ないと思っていたのは天国の志ん朝師匠と一緒。
しかし地獄のインターネットは北朝鮮なみに遅いので、
獄協には情報が来てなかったのです。
「おう! 会長ってのは誰だい?」
円楽師匠、会長室から現れて「久しぶりだな、松岡」。
(後半に続く)
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