伊藤Pのモヤモヤ仕事術
伊藤は現役のテレビ東京社員で、
現在はテレビ番組のプロデューサーを務めている。
書名にもなった「モヤモヤさまぁ~ず2」や、
「やりすぎコージー」といった、
テレ東のヒット番組を手がけている
(ただし、「やりすぎ」はこの9月で終わってしまったが…)。
しかし彼の名を高めたのは、
これも書名にある「伊藤P」としての存在だろう。
「モヤさま」の番組内で、
黒ずくめの服装でふらりと現れては種々の告知をしたり、
画面にチラチラ映り込む、鼻っ柱の高いひょろっとしたオジサマ。
それがこの本の著者、伊藤隆行である。
オジサマといってもさまぁ~ずよりやや若い(まだ30代)のだが、
そのミステリアスな雰囲気は、
まさに「フィクサー」と呼ぶにふさわしい。
そんなフィクサー・伊藤Pが手の内をバラす、という。
どんな「あくどい」方法なのか、気になるではないか。
伊藤が執筆する各章の間には、
「証言者」として、
伊藤をよく知る人物からの「伊藤隆行評」が挿入される。
大江麻理子・大橋未歩(ともにテレビ東京アナウンサー)、
さまぁ~ず(大竹一樹、三村マサカズ)、放送作家・北本かつら、伊藤の元上司…
そしてあとがきには「伊藤の妻」までが登場し、伊藤隆行その人について語っている。
伊藤の書いた部分は6章に分かれ、
籍を置くテレビ東京の置かれた位置から、
そのテレ東でどんな仕事をしてきたのか、
そして、最良の「仕事術」とは何か、を独自の筆致で語り尽くしている。
テレビ東京はその成り立ちからして特殊なテレビ局であり、
「番外地」であり続けた。そこに「なんとなく」入社した伊藤は、
ADを経験し、相当に鍛えられる。
上司にシバかれ、テレビ局の嫌な部分を目の当たりにしていく。
このあたりは今も腹に据えかねる部分はあるようである。
そんな伊藤もディレクターに昇進し、
あのヒット番組「愛の貧乏脱出大作戦」を担当している。
早稲田高校時代に野球部で頑張った過去を持つ伊藤。
ドロップアウトしてしまいそうなテレビの現場で頭一つぬきんでるあたりは、
かなり心身の鍛練された「屈強な男」の一面ものぞかせる。
そしていよいよプロデューサーとなる。伊藤は上司も認める「バカ」の精神で、
バラエティ番組がなりを潜めてしまったテレ東に、
「お笑いの種」をまいていく。
それが「モヤさま」「やりすぎ」に結実したのは、先に述べたとおりである。
一見華やかなお笑い番組のプロデューサーだが、
プロデューサーの仕事は本来地味なものであり、
いばるようなものではない、と伊藤は言い切る。
確かに番組をリードする「社長」的存在ではあるが、
すべては「調整役」であり、上役からは未だに怒られることが多い、とボヤく。
部下に対して怒るときは怒るが、基本的にはその力量を信じ、
自分の見込み違いでも、部下のミスでも泥をかぶる。
そう、伊藤は真の「フィクサー」=「調整役」なのである。
証言でも「部下や仲間にさりげなく気を配る」
「上司に叱られても口に出さない」ことが語られている。
伊藤の文体はある種独特である。
「自分は凡人」「自分はノンポリ」を繰り返し、
「番組作りはこうじゃなくちゃいけないんだ!」と持論を展開しつつ、
最後に「でもやっぱり赤字にしちゃうんですけどね」とオチをつけてしまう。
しかし合間の証言者による「伊藤隆行評」は、
おちゃらけた部分まで暴露しつつ、
結局「伊藤Pがいかに素晴らしい人物か」という内容になっているため、
『やっぱり伊藤Pって凄いんだ』ということが
読者にすり込まれてしまう。
これも、いかにも「フィクサー」らしい巧みな構成である。
まあ悪口はその辺にして。
一見、調子に乗ったキツネ顔に見える伊藤P(やっぱり悪口じゃないか!)の
マジメな、真摯な一面がこの本を通して見られた。
「仕事とは何ぞや?」「組織とは何ぞや?」。
働く人間にとっては、大いに参考になるところである。
そして「テレビとは何ぞや?」。
この問いかけに、伊藤Pは独自の視点で、ここでは明確に解を発露している。
「モヤさま」は都会ではきょう日曜日の夜7時に放送される番組である。
(地方では相変わらず夜中にひっそり放送されてるけど)
この本を読んでから「モヤさま」を見ると、また違った視点で
番組が見られるかもしれない。
ただ、伊藤P自身は、それを望んでいないかもしれないけどね。
「気楽に見てくれたら、いいんですよ。テレビってそんなものですよ」…
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