映画「落語物語」
林家しん平脚本・監督、落語協会完全協力による「落語映画」が
いよいよ盛岡で上映開始。さっそく「フォーラム盛岡」に見に行ってきた。
東北では早いほうだが、首都圏では8日をもって川崎を最後に上映が終了している。
なお、公開開始は3月12日だったが、
地震でプロモーションも全部パーになった、悲劇の映画でもあったりする。
どんな映画かはすでに上映直前にさまざまなメディアで情報は仕入れてあった。
公式サイトを見れば、大体の雰囲気はつかめる。
その準備は必要だったのかは、さておき…。
なおチケット購入時に千社札シールをもらったが、
全劇場でのサービスではないらしい。
主役級は3名、落語家・小六のピエール瀧、その妻の田畑智子、
そしてピエールに弟子入りする小春役には本職の柳家わさび。
しかし彼らはストーリーの横軸をつなぐ「狂言回し」のようなもので、
格好いい言い方をすれば、この映画の主人公は「落語」「噺家界」である。
上記の3人であるが、まずまず好演していると思う。
ピエールは某CMでも披露しているような「うだつの上がらない」
しかし「どことなく芯のある」男、というイメージの噺家を演じきっている。
そのピエールに弟子入りする青年・小春役のわさびは、
気弱そうな見た目そのままに、徐々に成長していく姿が愛らしく頼もしい。
田畑は、童顔で声も幼く、おかみさん役には少し物足りないが、
若き日のピエールとの恋愛シーンはおそろしくハマっていた
(逆にピエールが老けすぎていて興ざめするほど)。
監督は、なかなかうかがい知ることの出来ない、
落語界の裏側を描くことに主眼を置いており、
ストーリーはその肉付けのためにしたものである。
だからそれを追ってみても、
その陳腐さ(おそらくわざとかもしれないが)に
ヘキエキするだけだ。
「落語の世界」に浸かるための映画だと思ってみるのがよい。
主役の噺家夫妻のやりとりシーンが、冒頭からクサくてややウンザリするが、
馬石が出てくるあたりから「ケレン味」に変わってくる。
あとは個々の楽しみ方をすればよい。
落語をちょっとかじったような人ならば、
チョイ役で出てくる噺家のダイコン芝居に舌鼓を打つもよし。
落語を知らない人は、あんまりこの映画は見ないかも知れないが…、
落語家のギョーカイってこんななんだ、と実感してみることができるし、
もしかしたら落語に触れるきっかけになるかも知れない。
問題はかじりすぎた人だが、おそらく「あれは違う」とかなんとか、
文句をつけたりするんだろう(快楽亭ブラックみたいに)。
まあそういう人はおいておくが。
この映画の最大のポイントは、出演者の多くが、
落語協会の噺家・芸人でまかなわれているところ。
出番の多い大御所衆が、存在感を出しまくっていてよい。
ぼったくりバーマスターの柳家喬太郎、
床屋の主人役の柳家権太楼、ベテラン漫談師役の春風亭小朝…
ほかにも、落語協会会長役はあのペヤング・桂文楽が演じ、
幹部・席亭役には三遊亭歌武蔵や柳家小袁治が顔を見せ、
中堅漫談師&協会役員役の笑組、観客役に扮した春風亭百栄など、
知っている芸人が多ければ多いほど、ニヤリとさせられる。
ほか、「リアルおかみさん」海老名香葉子が、弟の方の息子と出てきたり、
シベ超ファンには「ホームラン」の出番もたまらないの一言。
本職の俳優陣では、刑事役の新井康弘は確信犯的キャスティングか。
ではここで、脇役勢の個人的「ナイスキャスト」ベスト3を、
(広瀬和生を意識しながら)紹介。
3位 嶋田久作
2位の馬石の師匠役。「怪優」のイメージが強い俳優だが、
今作では、渋みと哀愁、そして慈愛に満ちた、
大物(の地位を弟子に譲った)落語家を見事に演じきっている。
馬石との「緊張」が、一気に「緩和」するまでの流れがとにかく美しい。
2位 隅田川馬石
もと舞台俳優という経歴だけに、芝居のうまさはピカイチ。
円生の生き写しのようなイヤミな売れっ子落語家役にハマりきった。
最後は(ネタバレ)撲殺されてしまうのだが、
そんな悲劇の男を、終始哀感をただよわせながら演じている。
1位 三遊亭小圓歌
あの可憐な小円歌姐さんが、女流真打で協会幹部役。
不実の恋に落ちる売れっ子の弟子を、鈴本の階段でビンタするシーンは、
能面のごとき表情とあいまって迫力たっぷり。
文句なしの1位を差し上げたい。
映画は(ネタバレ)おかみさんの死でクライマックスを迎え、
最後に小春が前座の身でトリをやってのけ、エンディングとなる。
クレジットシークエンスが始まると席を立っている人がいたが、
実際は映画は続く(ま、見なくてもいいっちゃいいんだけど)。
映画中、断続的に五七調の格言のようなものが表示されるのだが、
ラストに画面にはこう出てくる。
「笑わせる腕になるまで泣く修行」。
この映画のエッセンスが詰まった言葉であるが、
これは、しん平監督の師匠、あの「根岸の師匠」の言葉である。
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