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キウイ・立川・スーパースター

万年前座 ~僕と師匠・談志の16年~立川キウイ・著。

今のところ、2011年で唯一真打ちになる予定の噺家である。
暗い話題ばかりが世間に漂う中、
ひとり、うれしいプレッシャーを受け止めているラッキーボーイ。

ボーイと言っても、来年には45歳になる「おじさん」。しかも独身。
以前も弊ブログで紹介していたが
著書は積ん読になっていた。
それを、先日一気に完読した。

キウイによって紹介される談志は、とにかく「理不尽」。
なんてひどい人間だ、と皆思うだろう。

それなのに、ああそれなのに、青年・塚田洋一郎は、
談志の言うことすべてを受け入れてあげるのである。

一度惚れた師匠を、裏切りたくない…。
ピュアな青年は、このバンダナグラサンジジイを信じ続け、
男の人生の最も大事な時期を、棒に振る。

キウイが「不遇の時期」を過ごした同じ年頃に、
談志は「笑点」を立ち上げ、「現代落語論」を書き下ろし、
2度目の選挙で国会議員になり、
そして落語協会分裂騒動のフィクサーにまでなっているのだ。

かたや、落語界の頂点。
かたや、落語界の下っ端。

3度も破門扱いをされ、5人の後輩に昇進を抜かれるも、
一緒に暮らす両親の言葉でようやく焦燥感を覚える始末。

16年間を「前座」あるいは「破門状態」として過ごし、
40歳になってようやく「二ツ目」となる。
これだって遅いくらいだ。
しかも、昇進は談志の「気まぐれ」。理不尽、理不尽、超理不尽。

キウイは談志への恨み辛みなど一つも言わない。
愛する家元の言うことなら何でも聞く。
反旗を翻したのは、二ツ目昇進後の
「お前、いつでもオレのために前座に戻っていいんだぞ」
という言葉だけ。さすがにこれだけは「勘弁して下さい」と言うよりない。

天才・談志が(原則として気まぐれとは言え)16年も昇進を認めなかったのだ。
噺家としての才能はちょっと怪しいところがある。

それでも、作家としての「文才」を、この著書では遺憾なく発揮している。
後半にはほろりとするエピソードもしたためてみせる。

律儀に、原稿はちゃんと手書きしたのだという。
「辞める」と書きゃいいのに「廃業める」なんてウルさい書き方をするあたりも、
「職業落語家」へのこだわりが感じられるではないか。

ネットでの誹謗中傷についても軽く触れている。
Wikipediaを見れば、彼への誹謗目的と思われる記述が満載である。

そんな卑怯な連中に、キウイは「匿名アンチさん」と優しい言い回しで、
毎日のようにブログで(酔いに任せて)ケンカを売る。

先に昇進した後輩に軽い皮肉を言って見せたりもするところも著書にある。
案外、男っぽいところもあるのだ。

顔の見えないヤツにケンカは売っても、
世話になった人の悪口は言わない。

何があったか知らないが、
自分を「くさった果物」呼ばわりする、
元先輩のメタボ道楽助平アイノコ噺家・快楽亭ブラックのことを、
キウイはこの著書でもブログでも絶対に非難したりしない。

理不尽に首切りを言い渡した談志の元を去り、
名古屋で噺家を続ける後輩(雷門獅篭)にも慈愛の言葉をかける。

隣人を愛し、右の頬を叩かれても左の頬を出す。
キウイ=タテカワ・アズ・ジーザス・クライスト=スーパースター。

談志が落語の神様ならば、キウイは落語の神の子。
「現代落語論」が旧約聖書なら、
「万年前座」は新約聖書なのかもしれない。

神は理不尽なこともすることを、
我々は3月11日以降、嫌と言うほど思い知らされた。
その理不尽に耐えて耐えて耐え抜いた者だけが、
最後に生き残るのだ。

「本を書いたのか。褒めてつかわす、おまえ真打」。
神の気まぐれで、スーパースター・立川キウイは真打になる。

愚直で愚鈍で愚図な噺家が、
真打として降臨する2011年。
審判の時は、もうすぐだ。

(追記 4/26)
ご本人にモバイル版を読まれたことを確認。

いつか読まれると思っていたが…

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