« 標識の書体、変わる | トップページ | 伊達巻きくらいは作りましょう »

テレビと芝居の手書き文字

asahi.com(朝日新聞)の「注目コンテンツ」のところで見つけた記事を読んで
速攻で注文した本が、今手もとにある。

Tegaki

「テレビと芝居の手書き文字」竹内志朗・著。イグザミナ刊。
テレビも文字も好きな自分にはこれ以上ない本である。

テレビタイトル文字職人といえば、
名古屋テレビ(現メーテレ)に在籍し、『ナール』『ゴナ』を生んだ中村征宏
「8時だョ!全員集合」「日本レコード大賞」の篠原栄太を思い出すが、
大阪にも「巨人」がいた。それが竹内志朗である。

なにしろ、朝日放送が「大阪テレビ」と名乗っていた時代から、
せっせとテロップを書いていたのだから筋金入りの人物の書いた本なのだ。

自費出版。そもそも売れる種類の本でもないし、
チョサクケンの問題もあってか、市販するわけにもいかないようである。

購入方法は、「竹内志朗アトリエ」に、直接FAXで注文するしかない。
我が家にはFAXがないので、しかたなくセブンイレブンからFAXを送った。
その2日後に、宅急便で丁寧に送られてきた。
(ちなみに、代金支払い方法を書いた紙に、
自分の名前が様付けでペン書きしてあったが、おそらくご本人の字であろう)
思ったよりも大きくて厚く、紙質の良い本である。

タイトルには「文字」とあるが、竹内は「舞台装置デザイナー」でもあり、
後半は舞台装置のほうにもページを割いている。

しかし、舞台装置もタイトル文字も作れる人はひと味違う。
ポスターも作ってしまうのだ。
つまり、舞台のアートディレクションを、一人ですべて請け負ってしまうのである。

すべてに、若い頃に劇団に在籍したころの経験が生きている。
裏方を志向したが、最初は演じる側も務めていたという。

その後、デザイン会社に入り、無給で(!)働いた。
努力の甲斐あり、開局したての「大阪テレビ」、現在のABC朝日放送に出入りの職人となる。

当時のテロップはみな手書き。
ニュース番組では大量のテロップを短時間で用意せねばならず、
テロップ職人、「タイトルさん」は大忙しだったという。

それ以外にも「テレビ映画」、つまりドラマや、
バラエティ番組などでも、タイトル文字制作のほかに、
テロップやフリップ描きも行っていた。

毎日「手から筆を落とすほど」文字を書き続けているのに、
たまの休みにスキーに出かけた日、宿に戻ったその夜も練習をしたそうだ。

その後、ニュース番組で写植の導入が始まり、駆り出されることがなくなると、
ドラマのキャスト・スタッフのテロップ制作や、
タイトルデザインが主な仕事になっていく。
といっても、タイトルバックの立案・構成から小道具づくりまで手がけたそうだ。

タイトルデザインの代表作として
新婚さんいらっしゃい!」「探偵!ナイトスクープ」が挙げられる。
ほかにも「プロポーズ大作戦」「霊感ヤマ感第六感」「剣客商売」などを手がけている。

ほかにも大量の作品が掲載されているが、
残念ながら関西ローカルで古いものが多く、ほとんどはピンと来なかった。
「駕籠や捕物帳」「新・遠い国近い国 世界のどこかで」
「夫婦善哉」「わんぱく砦」「日曜お楽しみ劇場」…。

しかし「やりくりアパート」「お荷物小荷物」「部長刑事」など、
タイトルだけは知っている作品もちらほら。

当時のエピソードとともに思い入れを持って記述している「必殺シリーズ」は、
書家の糸見溪南が書いた番組タイトル文字原案のレタッチを行うほか、
サブタイトル(「○○して候」「主水、○○をする」の類)はほぼすべてを書いたという。

竹内の仕事は、日本のテレビの歩みとともにあった。

しかし、本にも少なからず書いてあるが、
現在、テレビの世界はコンピュータテロップが主流となっている。

アホほどテロップを使うようになったが、
それはディレクターが、VTR編集と並行し、
シコシコとキーボードで入力して表示しているものである。

先述通り、現在竹内は、テレビタイトルデザインのほか、
本来のホームグラウンドであった「舞台装置」のデザイナーとして活躍中。
今も休みはないというが、若い頃の激務経験と比べればなんてことはないようである。
御年77歳、意気軒昂。

自費出版ということもあり、文体は聞き書き調でとりとめがない。
内容も系統立てて書かれておらず、
話があっちゃこっちゃ飛んでいる印象もあるが、
それが逆にリアルな「タイトルさんの生の声」の雰囲気を伝えている。

「業界人」ならではの記述もある。
「ABCフラッシュニュース」の、
円盤がクルクル回るオープニングの制作秘話は、
とくに関西の“テレビマニア”にはたまらないだろう。

いっぽうで、「これからは太い書体が流行りまっせ、開発しまへんか」と
モリサワ」に提案したが「そんなんあきまへん」と蹴られたのに、
いつの間にか「写研」が太い書体をリリースしててそれがバカ売れした、という
当時の写研とモリサワの立場を如実に表したような、
“フォントマニア”にもたまらない逸話も載っている。

竹内が書いたテロップは、知人の計算によると230万枚程度になるのでは、という。
しかしそのほとんどは廃棄され、手もとにあるものはごくわずかだそうだ。
この本では、「綺羅星」のごとく、さまざまな番組のタイトル文字が掲載されている。
その多くは、「再現」して書いたものだそうだ。

テロップが残っていないことについては「それでいい」のだという。
画面に表示されては消えていく、「流れ星」のようなテロップたち。

いまは味気ない「フォント」になってしまったが、
手書きの時代があったことも伝えたい、という。

テレビの世界に、手書きのテロップが戻ることはあり得ないが、
「職人気質」だけは、どこかに残していって欲しいものである。

※なお、舞台装置について記述している、
 後半の“芝居編”はこれから読むところである。

|

« 標識の書体、変わる | トップページ | 伊達巻きくらいは作りましょう »

「文化・芸術」カテゴリの記事

「映画・テレビ」カテゴリの記事

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

「趣味」カテゴリの記事

コメント

いつも読ませていただいてます
前回のなつかし映像の記事以来なつかし映像発掘するのが日課になってます
今回はちょっと趣向が変わった映像をyoutubeで見つけました
http://www.youtube.com/watch?v=H75qSWWS_6I&feature=related
これ、全国ネットで中継していたんですね
柴柳さんの実況も騎手の面々も現在は調教師になられている方もいたりして時代を感じます
地上波で見る岩手競馬中継ってなんか趣深くて好きだったんですよね
この頃のように南部杯以外の重賞も地上波中継してくれるくらい岩手競馬が復興してくれないかなあと願うばかり。

駄文長々と失礼しました。
また面白いものをみつけたら報告します。

投稿: うまお | 2010.12.18 06:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17134/50328088

この記事へのトラックバック一覧です: テレビと芝居の手書き文字:

« 標識の書体、変わる | トップページ | 伊達巻きくらいは作りましょう »