水木しげるは妖怪だった
「妖怪・水木しげるのゲゲゲ幸福論」(BSジャパン)を途中から見る。
漫画家・水木しげるの「生態」を、水木の実娘の目線から追うドキュメンタリー。
昨年放送され、ギャラクシー賞を獲得した番組の再放送である。
大漫画家であり妖怪のスペシャリストである水木だが、
カメラの前でイチモツを出そうとしたり、
鼻をほじってみたり…実にとぼけた「爺さん」であったが、それ以上に「妖怪」でもあった。
水木を中心に、南伸坊、呉智英、荒俣宏、京極夏彦という
「バケモノ」達が自由に話し合うシーンが随所に挿入される。
皆、水木を心底愛する素敵な化け物どもだ。
そして水木は、戦争で左手を失った時以来、数十回目というパプアニューギニアを訪問。
子分として荒俣を従えるが、さしもの荒俣ですら小物に見えてしまうほど、
水木は存在感を視聴者に見せつけながら、パプアニューギニアの世界に入り込んでいく。
バナナの親玉みたいなものを頬張りながら「世界一うまい」と豪語する水木は
やはり、妖怪にしか見えない。
水木ら、日本軍が戦っていた時代を知る現地の老人たちは、
「戦い合う若者達が可哀想だった」とつぶやき、軍歌を流ちょうに歌う。
死を与え合う過酷な戦場のすぐ隣には、ギニアの人々がのんびり暮らしていた。
水木はそんな「楽園」でたびたび、羽を伸ばしていたという。
水木はギニアで隻腕となったが、代わりに、何かとてつもないものを得たのであろう。
戦争での生き死には一瞬だという。傷つきながら銃を構える者はいない、と。
死ぬ奴は、一瞬で死ぬ。その「死」と引き替えに、60年以上生き続けてきた水木。
それでも「死」に対し、いまでも興味を抱き続ける水木。
「お迎えはいつ来るんだか」と気を揉むが、
おそらく永遠に、死はこないのかもしれない。「お化けは死なない」というではないか。
もし仮に死の時が来るとしても、
来るべき瞬間にオーガズムを感じ、最後の勃起でもしているのかもしれない。
水木しげるは、恐るべき、「最強の妖怪」であった。
(追記08/5/25)
昨日再放送されていたので最初から見た。
「黙ってて金が入ってくる仕事はやっぱりいいもんですよ」と
あっさり言い切る姿は実に堂々としている。
こういう嫌みのない成功者になりたいものである。(どうせなれないけど)
本放送は2006年3月で、もう2年も経っている。
特典映像&フィギュア付きDVDも出ているとのこと。
(追記 16/1/1)
2015年11月末に水木は亡くなった。
お化けは死なない、と言ったが、やっぱり人間だったということ。
目玉のおやじは、ちょっぴりしょっぱいお風呂に入ったのだろう。
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